日曜朝6時、撮影に出かけるためいつものサンダルを履こうとした、その時、アイツがサンダルの隙間から顔を出しやがった!
この日のために、用意周到に玄関先に置いてあったゴキジェットプロを思いっきり噴射して、こちらまで卒倒しそうになりながら、卒倒してしまったアイツを玄関先に放置して、撮影に向かった。
久しぶりのメンズ撮影。
こんなに興奮したのはいつぶりだろうか?
客観的であらねば、と冷静さを装うものの、私好みに変えたい衝動を抑えきれず、職権乱用なんじゃ?的罪悪感を抱きつつ、いやいや、男子たるものかっこよくあれ!、とエアコンのない、トラック塗装工場内を汗だくになって走り回った。
この有頂天ぶりはどうなんだ?
いい年こいて、若い子見て、「かわいい~!」、だなんて・・・
心地よい疲労感で帰宅すれば、仰向けで放置されたアイツが玄関で待っていた。
明日も、早朝出発だ。
ひとまず寝よう。なにせ、かなりの寝不足で目の下にクマが出来てるじゃないか。明日だって、かわいい若い子に会うんだから。
「いいよ~いいよ~!」
はたして、日本語の声援が理解されているかどうかはかなり怪しいが、目を細めて褒めちぎっている一番年長者であろう私の顔を見ていれば、この仕事は順調だって事ぐらい、16歳の子にだってわかるはず。だって、彼らはプロだもの。
久しぶりに楽しい撮影だった。
そして、ようやく今日で、秋のキャンペーンに向けた撮影の慌しさは、ひと段落できることになった。
長きに渡った撮影月間も終了した。
ほっとしたのもつかの間、今、私の足には鳥肌が立っている。ざわわざわわが止まらない。
さっきまで、私の視線の先に壁伝いに動いていたアイツを見失ってしまった。
鳥の恐怖は、大枚はたいて外壁に金網を取り付け、換気口への侵入を防いだ。天井の板が自然と動いていたのは、屋上の風のせいだと判明した。
残すは、黒い恐怖との闘いだ。築年数の古いマンションだ。新たなる危機に直面することもあるやもしれない。
完璧にリラックス出来る日は、まだまだ遠いようだ。
実際のところ、アイツは掃除機に吸い込まれたままなのだから。